お子さんのことばの発達について、「これでいいのかな?」「もっと何かできることはないかな?」と悩む保護者の方は少なくありません。今回は、ことばの相談室ことりより、お子さんとのコミュニケーションをより豊かにするためのアプローチとして、「インリアルアプローチ」をご紹介します。

このアプローチは、お子さんの興味や関心に基づき、大人が適切な応答をすることで、お子さんの主体的なコミュニケーション意欲を促すものです。特別な教材や練習をするのではなく、普段の生活の中で親子の関わり方を変えることで、コミュニケーション力(やりとりする力)を促します。
このアプローチは、ことばの遅れがあるお子さんだけでなく、発達障害や聴覚障害を持つお子さんのコミュニケーション指導にも広く用いられており、「教える」というよりは「ともに楽しむ」という姿勢を大切にします。
お子さんの興味や関心に寄り添い、それについてことばを共有することで、お子さんは「自分のことを分かってくれる人がいるな」「話すって楽しいな」と感じ、もっとやりとりをしたいと思うようになっていきます。
インリアルアプローチを家庭で実践する上で、まず大切にしていただきたいのが、以下の4つの基本姿勢 ”SOUL” です。
お子さんが何かを始めようとする時や、何かを伝えようとしている時、焦らずじっと待ってみましょう。大人がすぐに手を出したり、答えを急かしたりせず、お子さん自身のペースで行動や表現ができるような「間」を与えることが、お子さんの自主性を育みます。
お子さんが今、何に興味を持っているのか、どんなことをしようとしているのか、どんな気持ちでいるのかを注意深く観察しましょう。ことばだけでなく、表情、視線、身振り手振りなど、お子さんが出している小さなサインを見逃さないようにすることが大切です。
観察を通して見えてきたお子さんの気持ちや行動の背景を、深く理解しようと努めます。お子さんの「なぜ?」や「どうしたい?」を想像し、お子さんを尊重する気持ちで接することで、お子さんとの間に信頼関係が築かれます。
お子さんのことばはもちろんのこと、ことばにならない声や、身体全体で表現しているメッセージにも、耳を傾けましょう。お子さんの伝えたい気持ちを大切に受け止めることで、「自分の話を聞いてくれる」という安心感が育ちます。
日常生活の中で取り入れられる具体的なことばかけの技法を7つご紹介します。これらは、お子さんが自然にことばに触れ、コミュニケーションの楽しさを感じるための大切なヒントです。
お子さんがしている動作や仕草を、そっくりそのまま真似してみましょう。
(例)お子さんが積み木と積み木をたたいて音を出したら、大人も積み木をもって音を鳴らす
――お子さんは「自分の行動に注目してくれている」「同じことをしてくれて嬉しい」と感じ、大人との一体感を味わうことができます。
お子さんが出した声や、話したことばを、そのまま繰り返して返してみましょう。
(例)お子さんが「ブーブー」と言ったら、「ブーブー」と返す
――お子さんは自分の発した音やことばが大人に伝わったことを実感し、「もっと話したい」という気持ちにつながります。
お子さんが今していることや、感じているだろう気持ちをことばにして伝えてあげましょう。
(例)お子さんがブロックを積んでいる時、「高く積んでいるね」「楽しいね」
――お子さんは「自分のことを分かってくれている」と感じ、ことばと行動が結びつくことで語彙が増えていきます。
大人が今していることや、感じている気持ちをことばにしてお子さんに聞かせてあげましょう。
(例)大人が料理をしている時、「お野菜を切るね」「いい匂いがしてきたね」
――お子さんは大人の行動や気持ちを理解し、生活の中の様々なことばを吸収します。
お子さんが間違ったことばを使っても、否定せずに正しいことばに言い換えて返してあげましょう。
(例)お子さんが「てべり みるー!」と言ったら、「テレビみよっか!」
――間違いを指摘せず、正しいモデルを示すことで、お子さんは話す意欲を失うことなく、自然に正しいことばを身につけていきます。
お子さんの言ったことばを、意味的・文法的に少し広げて返してあげましょう。
(例)お子さんが「お花」と言ったら、「ピンクのお花だね」
――お子さんのことばの表現を豊かにし、より詳しい情報を伝える練習になります。
お子さんが興味を持っている話題に合わせて、新しいことばや表現をさりげなく教えてあげましょう。
(例)お子さんが積み木で家を作っている時、「素敵なお家ができたね。ドアもあるね」
――お子さんの関心のあるものから、新しい語彙を学ぶ機会を提供します。
< 7つのことばかけのヒント >
- ミラリング ――――― 動作の模倣
- モニタリング ―――― 音声・ことばの模倣
パラレル・トーク ―― 子どもの行動や気持ちの言語化
セルフ・トーク ――― 大人の行動や気持ちの言語化
リフレクティング ―― 言い直し
エクスパンション ―― ことばを広げる
モデリング ――――― 新しいことばの提示
インリアルアプローチは、特別な時間を設けて勉強するものではありません。お風呂の時間、食事の時間、公園での遊びなど、普段の何気ない日常の中に、これらのことばかけのヒントを少しずつ取り入れていくことが大切です。
「全部やらなきゃ!」と気負う必要はありません。まずは、お子さんの興味を見つける観察から始めてみたり、お子さんの行動を真似る「ミラリング」を試してみたり、できることから始めてみてください。保護者の方ご自身が、お子さんとのコミュニケーションを楽しむ気持ちが、何よりもお子さんの成長につながります。
もし、「もっと詳しく知りたい」「家庭で実践するのが難しい」と感じることがあれば、一人で抱え込まずに、ことばの相談室ことりへお気軽にご相談ください。言語聴覚士が、お子さんの発達段階やご家庭の状況に合わせて、具体的なアドバイスをさせていただきます。
(文・堀美月)