「滑舌が悪い」「早口言葉が苦手」「話すと舌が疲れる」……。こうした悩みの原因の一つに、「舌小帯短縮症(ぜつしょうたいたんしゅくしょう)」があります。
舌の裏側にあるヒダ(舌小帯)が短いために舌の動きが制限されるという疾患で、乳幼児を調べた統計では生まれつき4~10%の人にみられるそうです。発音(構音)に影響を与えることが分かっていますが、手術をすればよくなるのでしょうか?なにかトレーニングは必要なのでしょうか?
舌小帯が短いと、舌の可動域(動く範囲)が制限されるため、話し方の癖が現れやすくなります。

例えば、舌先を弾く動作が必要な「ラ行」が「ダ行」のように聞こえてしまったり、音がもつれたりする現象などが起こりやすいです。また、タ行やサ行を言うときに舌を前歯の間に挟んでしまう、舌を出して話してしまう「歯間音化(しかんおんか)」という癖がつくことも少なくありません。
単語ひとつひとつを丁寧に言うとはっきり言えても、日常会話のような速いペースになると舌の動きが追いつかず、全体的に不明瞭な印象になることがあります。
さらに、舌があまり動かないことを補うために、口を大きく開けずにボソボソと話す「代償的な話し方」が定着してしまうこともあります。
こうしたことが、話すことやコミュニケーションへの自信を損なう要因となる方もいらっしゃいます。

ご自身やご家族・お子さんの舌の状態を知る簡単なチェックの方法をご紹介します。
それは、「口を大きく開けた状態で、舌先をどこまで上げられるか」という判定方法です。
通常であれば、上の前歯のウラや口の天井(口蓋)まで届きます。
口の開きの半分以上まで舌が上がる場合は「軽度」とされますが、これでも速い速度でラ行を言うと、もつれることがあります。
半分以下しか上がらず、舌を前に出したときに先端がハート型にくびれる場合は「中等度」、下の歯より上に上がらない場合は「重度」と判断されます。中等度以上になると、発音だけでなく、ソフトクリームが舐めにくい、食べこぼしが多い、あるいは奥歯に詰まったものが指を使わないと取れないといった、食事の面での不自由さを感じるケースも多く見られます。
| 軽度 | 口の開きの半分以上まで舌が上がる |
| 中等度 | 半分以下しか上がらず、舌を前に出したときに先端がハート型にくびれる |
| 重度 | 下の歯より上に上がらない |
治療には「手術(舌小帯伸展術)」と「機能訓練(トレーニング)」の2つがあります。ここで重要なのは、「手術をすれば、すぐに発音が完璧になるわけではない」という点です。
なぜなら、長年制限された動きの中で過ごしてきた舌と指令を出す脳は、正しい舌の動かし方を知らないからです。
手術で物理的に舌が動くようになっても、「新しく手に入れた自由な舌を使いこなす練習」をしなければ、これまでの話し方の癖が残ってしまうのです。
一般的な医療機関でのリハビリ(構音指導)は、術後の癒着を防ぐ練習から始まり、筋力強化、そして正しい位置で音を出す訓練へと進みます。
通常は数ヶ月で一区切りとなりますが、「病院での訓練は終わったけれど、まだ日常会話で自信が持てない」「時間が経って、また変な癖が出ていないか不安」という方もいらっしゃるかと思います。
ことばの相談室ことりでは、病院での専門的なリハビリを終えた後でも、より自然で魅力的な話し方を目指すためのブラッシュアップなど、一人ひとりのライフスタイルに合わせた長期的なフォローが可能です。
舌小帯短縮症による発音のしにくさは、本人の努力不足ではなく、物理的な構造とそれに基づく学習の結果です。
もし「滑舌」に不安がある場合は、歯科医師や言語聴覚士が在籍する専門外来を受診することをお勧めします。
適切な診断と、手術・訓練の組み合わせによって、より楽に、より明瞭に話せるようになります。