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サ行が言えない、カ行が言えないお悩み、「外郎売(ういろううり)」を練習すれば治る?

発音・大人の発音矯正
2026.02.01 更新

さしすせそが言えず、「さかな」が「しゃかな」になる、「ち」が「き」になり、「チーズ」が「キーズ」に聴こえる…

――お子さんの発音が聞き取りにくく、「将来困るのでは」と心配する親御さんや、ご自身の話し方にコンプレックスを感じ、「なんとか自力で改善したい」と独学で練習に励まれている大人の方はたくさんいらっしゃいます。

 

一生懸命、滑舌の練習を繰り返しているのに、なかなか思うように成果が出ないと、「やり方が間違っているのかな」「このまま続けて意味があるのだろうか」と不安や焦りを感じてしまうと思います。

サ行が言えない、カ行が言えない、「ち」が「き」に聴こえるなど、特定の音が言えない悩みを持つ人は「機能性構音障害(きのうせいこうおんしょうがい)」に該当する可能性があります。

この記事では、滑舌のトレーニングとして有名な「外郎売(ういろううり)」の音読が、機能性構音障害に対してどのような影響を与えるのか、そして本当に必要なステップは何なのかを、言語聴覚士の視点から詳しく解説します。

外郎売で機能性構音障害を改善するのは難しい?

結論からお伝えすると、外郎売(ういろううり)をがむしゃらに音読するだけでは、機能性構音障害を根本から解決するのは難しいです。

何度も繰り返せばリズムやテンポが改善し、なめらかな話し方を手に入れることができます。
ですが、それはすでに言えている音に限った話です。

「サ」や「チ」など特定の言えない苦手な音がある場合には、根本的な解決のために別のステップが必要になります。

なぜ外郎売だけでは不十分なのでしょうか。

機能性構音障害(きのうせいこうおんしょうがい)とは、喉や舌などの器官に病気や障害があるわけではないのに、「音を作るための舌や唇の動き(フォーム)」が間違ったクセとして定着してしまっている状態を指します。

外郎売だけでは不十分な理由

  • 間違ったフォームをやみくもに強化してしまう
  • 音の誤りを矯正するには、スピードよりも正確性を優先したほうがよい
  • 自分の耳で自分の発音をジャッジするのは難しい

外郎売は滑舌(スピードと滑らかさ)の訓練には最適ですが、ことばの習得にまず必要なのは「ゆっくりでいいから正しい音を一つずつ作ること」です。

また、自分の声は骨伝導でも聞こえるため、どのように・どの程度音が歪んでいるか、自分で正確にジャッジするのはかなり難しいと思います。
ご家族やご友人が聞いても、おかしいと感じても言いづらく指摘せず遠慮してしまったり、子どもだから舌足らずでもこんなものかなとスルーしてしまうこともよくあります。

そもそも「外郎売」とはどんなもの?

そもそも「外郎売(ういろううり」をご存じない方のために、「外郎売(ういろううり)」とは一体何なのか、少し解説をします。

外郎売の特徴

外郎売は、もともと歌舞伎の演目の中に登場する長台詞です。
薬売りの鮮やかな口上を通じて観客を惹きつけることが目的で、「武具馬具、武具馬具、三武具馬具(ぶぐばぐ、ぶぐばぐ、みぶぐばぐ)……」といった早口言葉のようなフレーズが多く含まれています。

あえて言いづらく難易度が高い言葉が多く並んでいるため、現在では、声のプロが「滑舌の強化」や「調音器官(舌や唇)の柔軟性向上」のために行う、いわば「声のアスリート向けの筋トレ」として定着しています。

ですが、プロのナレーターやアナウンサー、声優向けのトレーニングを、滑舌が悪い人やサ行、カ行のように特定の音が言えない・苦手な人がそのまま応用するのは、おすすめしません。

発音の土台を修正する必要がある機能性構音障害へのアプローチとしては、少しハードルが高すぎるトレーニングといえます。

実際に、ことばの相談室ことりでは「外郎売(ういろううり)」をレッスンの教材として採用することはほぼありません。もし、使うことがあるとすれば、レッスンの卒業間際の最終段階で成果を確認する意味合いでの使用かもしれません。

 

機能性構音障害を改善するための正しいアプローチ

機能性構音障害を改善するには、スポーツのフォーム矯正と同じような段階を踏むのが一般的です。

ことばの相談室ことりでも、お子さん一人ひとりの状態に合わせて、以下のようなステップで取り組みを進めていきます。

改善への具体的なステップ

導入
① 構音点(舌のつく位置)、構音方法(音の鳴らしかた)のアセスメント
② 単音(音ひとつ)を言えるようになるまで練習
発展
③ あいうえおと組み合わせた2音節・3音節のスキット
④ 単語レベル:短く言いやすい語から、徐々に言いづらい音の組み合わせの語へのステップアップ
定着
⑤ 文章の音読
⑥ 日常会話で不意に気を付けることができるか、無意識に音を操ることがでるか、定着のステップ

このように、丁寧なステップアップを踏んでいくことで正しい音を普段の会話のなかや、緊張するプレゼン、面接、営業電話などのときにも使っていけるようになるのです。
このステップアップのことを、「スモールステップ」と呼んでいます。小さな階段を少しずつ登っていくように練習メニューを組み立てると、無理なくかんたんにゴールまで登ることができます。

言語聴覚士は、機能性構音障害のあるお子さんや大人の方の舌がどう動いているかを客観的に分析し、適切で一人ひとりのレベルに合ったトレーニング方法を提案します。

外郎売と機能性構音障害の練習はどう違うの?

外郎売と、機能性構音障害のためのアプローチは、目的が大きく異なります。
それぞれの性質を整理すると、違いがより明確に見えてくるはずです。

外郎売と構音練習の比較

項目

機能性構音障害のレッスン

外郎売(音読練習)

主な目的

正しい音を作るフォーム修正

滑らかさやスピードの向上

意識する点

舌の位置・息の方向

リズム・抑揚・滑らかさ

難易度

単音からスモールステップ

複雑な長文

外郎売は、正しい発音の土台ができている人が「さらに磨きをかける」ためのツールです。
基礎的なフォームが整っていない状態で高負荷なトレーニングをしても、効果が出にくいどころか、誤った発音をより深刻な悩みにしてしまう原因にもなりかねません。

大切なのは「努力の量」よりも「正しい型」を身につけることです。
お子さんの意欲を大切にしながら、まずは「正しい音の出し方」に目を向けてあげましょう。

ことばの相談室ことりでは、お子さんの発音の状態を丁寧に評価し、無理なく進められるプログラムをご提案しています。

さしすせそが言えないなど、「この音がどうしても言いにくい」といった具体的なお悩みがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。