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多言語環境で育つとことばが遅れる?

ことばがゆっくり
2025.06.26 更新

「3ヶ国語も使っているから、混乱しているのかな?」「うちの子、周りの子よりことばが少ない気がする…」

複数の言語が飛び交う環境で子育てをされている保護者の方から、このようなご相談をいただくことがあります。特に3歳くらいになると、ことばの発達が気になってくる時期ですよね。

この記事では、多言語環境がお子さんのことばの発達にどう影響するのか、そしてご家庭でどんなサポートができるのか、具体的なアドバイスをお届けします。

多言語環境とお子さんのことばの発達について

多言語環境でのことばの育ち方

多言語環境で育つお子さんは、それぞれの言語に触れる時間が分散されるため、一つの言語だけを使うお子さんと比べると、一時的にそれぞれの言語で話すことばの数が少なく見えることがあります。これは、ことばの発達が遅れているわけではなく、それぞれのことばを少しずつ、バランス良く吸収しているためです。全ての言語を合わせると、年齢相応かそれ以上のことばを理解していたり、知っていたりすることも珍しくありません。

こんなサインが見られたら、少し注意して観察しましょう

3歳くらいのお子さんであれば、一般的には「ワンワン、来た」「もっと、ほしい」のような2語文や3語文を話し始め、簡単な質問にも短いことばで答えられるようになります。

もし、お子さんがどの言語でも、以下のような様子が見られる場合は、少し注意深く様子を見ていきましょう。

  • ことばが単語だけで、文章にならない
  • 話す単語の数が、同年齢の子と比べてとても少ないように感じる
  • 「おもちゃ取って」「おいで」など、簡単な指示を理解するのが難しい様子がある

このような場合、多言語環境とは別の理由で、ことばの発達がゆっくりな「レイトトーカー」の可能性も考えられます。
→レイトトーカーについてのコラムはこちら

環境の影響?それとも個性?見分けるための観察ポイント

多言語環境の影響なのか、それともお子さん自身の発達のペースなのかを見分けるために、次の2つのポイントを意識して観察してみてください。

大人の言うことをどれくらい理解しているか(指示理解)
    • 「おもちゃを箱に入れてくれる?」といった簡単なお願いを理解して行動できますか?
    • 絵本を見ながら「ワンワンはどっちかな?」と問いかけると、指をさしたり、探したりする様子はありますか?
他の人と関わろうとする気持ち(コミュニケーションへの意欲)
    • ことばが出なくても、指差し、身振り手振り、表情などで何かを伝えようとしますか?
    • 大人が話しかけたり、遊んだりすることに興味を示し、応えようとしますか?

ことばはゆっくりでも、大人の言うことを理解していたり、積極的に関わろうとしたりする様子が見られるなら、ことばを理解する力は順調に育っている可能性が高いです。その場合は、多言語の環境に慣れていく中で、徐々にことばが増えていくことが期待できます。

おうちで楽しく言葉を育む!具体的な7つのヒント

多言語環境でことばを育んでいるお子さんのために、ご家庭でできる具体的な取り組みをご紹介します。大切なのは、親子で楽しみながら、自然な形でことばに触れる機会を増やすことです。

家族でことばの役割分担をしてみよう(一人一言語の意識)

例えば、「お母さんは日本語」「お父さんはドイツ語」「保育園では英語」というように、誰がどの言語で話しかけるかを大まかに決めてみましょう。こうすることで、お子さんはそれぞれのことばを区別しやすくなり、頭の中が整理されやすくなります。

お子さんの「大好き!」に合わせてことばを添えよう

無理にことばを教え込もうとするより、お子さんが夢中になっている遊びや好きなものを通してことばに触れる機会を増やしましょう。絵本やおもちゃで一緒に遊びながら、「これは何?」と質問攻めにするよりも、「あ、電車だね。速いね。ビューンって走るよ!」というように、見たことや状況をことばにして伝える実況中継がおすすめです。

毎日の生活の中で「いつものことば」を繰り返そう

食事(「いただきます」「おいしいね」「ごちそうさま」)、お風呂、着替え、寝る前など、毎日の生活の場面で使うことばは決まってきます。こうした場面で、同じフレーズを繰り返し使うことで、お子さんはことばの意味と使い方をセットで覚えやすくなります。

ジェスチャーや絵カードも味方に!目で見てわかる工夫を

ことばだけでなく、身振り手振り、指差し、絵や写真が描かれたカードなど、目で見てわかる手がかりを一緒に使うと、ことばの理解がぐっと深まります。特に、たくさんのことばに触れているお子さんにとっては、こうした「見てわかるサポート」が、ことばを整理する手助けになります。

リキャスト法(言い直し法)で表現力を育てる

お子さんが単語や短いことばで何かを伝えてきたら、それを少しだけ長く、そして自然な言い方に直して返してあげましょう。例えば、お子さんが「ワンワン!」と言ったら、「そうだね、白いワンワンがいるね」というように、正しいお手本を示してあげるイメージです。これを繰り返すことで、お子さんは新しいことばの表現や文法を自然と学んでいきます。

「話して!」より「伝えようとしてくれてありがとう!」を大切に

ことばを話すことがまだ得意ではないお子さんにとって、「言ってみて」「真似してごらん」といったことばの強要は、プレッシャーになってしまうことがあります。それよりも、お子さんが指差しや身振りで一生懸命伝えようとした時に、「教えてくれてありがとう!」「そうか、あれが欲しいんだね」と、その気持ちや行動を認めて褒めてあげましょう。そうすることで、「もっと伝えたい!」という意欲が育ち、自分からことばを発するきっかけに繋がります。

テレビやタブレットは「一緒に楽しむ」ツールとして

テレビやタブレットなどのデジタルメディアを完全に禁止する必要はありません。大切なのは、時間を決めて、親子で一緒に見ながら「これは何かな?」「楽しいね」などと会話をすることです。お子さんが一方的に見るだけでなく、親子でやり取りできるような動画やアプリを選ぶのも良いでしょう。ことばへの興味を自然に引き出すことができます。

~おまけ~小さな成長日記をつけてみよう

「今日、新しいことばを言った!」「前はできなかったジェスチャーができた!」など、日々の小さな変化や成長をメモや動画で記録しておくと、後で見返したときにお子さんの進歩を実感できます。保護者の方の焦りや不安が少し和らぎ、お子さんの成長をより温かく見守る力になるはずです。

心配なときは専門家にご相談ください

「コミュニケーション自体にあまり興味がなさそう」「言っていることが分かっていないみたい」など、ご家庭での観察で気になる様子が見られたり、どう関わったら良いか迷ったりする場合は、一人で悩まず、専門機関に相談してみることをおすすめします。

「言語聴覚士(げんごちょうかくし)」は、ことばの発達を専門的にサポートする職種です。
日本への一時帰国中だけでなく、海外にお住まいの場合でも、オンラインで相談できる専門家もいます。ことばの相談室ことりでも、もちろんご相談を承っております。どうぞお気軽にお声がけください。

多言語環境で育つお子さんのことばの発達は、一人ひとりペースが異なります。焦らず、お子さんの興味やペースを大切にしながら、日々のコミュニケーションを楽しんでいきましょう。

もし、具体的な関わり方についてもっと詳しく知りたい、うちの子の場合はどうなんだろう?と悩まれたら、いつでもことばの相談室ことりにご相談くださいね。

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(文・堀美月)

―おしらせ―

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